海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

新しい景色

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下北沢といえば演劇の街で。

いちおう、演劇業界の端くれで生きている人なので下北沢にはかなりの頻度で足を運ぶ。

もう30年くらいになる。

 

数年前から小田急線の下北沢駅が地下に潜る工事が始まり、駅からの景色が少しずつ変わっていった。

駅前劇場という小さな劇場は以前は南口改札を出た眼の前にあったのだけど、南口改札がなくなり駅前っぽさがなくなった。

改札からホームまですぐだったので、遅くまで飲んでてもギリギリで終電に滑り込むことができたのだけど、改札から地下のホームまで遠くなってしまったのであんまりギリギリだと間に合わなくなってしまった。

地上からは線路がなくなり、線路を越えるための踏切も当然のようになくなり、新しい道が通り、広場ができて。

不便だからというよりも、見慣れた景色が変わることになんとなく抵抗を感じたりもしていて。

半年くらい前から新しいことを始めようと準備してきた。

似たようなことをしているひとも見当たらないサービスを作る。

準備してきたというよりも、前に進んでは戻り、ためらい、周りのひとを巻き込んではほったらかし、足踏みし、みたいなことを繰り返すうちに、ものごとは大して進んでいないのに時間だけが過ぎていった。

自分のなかではぼんやりとイメージがあって、きっとそれは面白いことなんだけど、その面白さをどんなひとに刺さるのか、どう伝えれば届くのか、そんなことを考えるうちに不安になって。

そんなことを繰り返していた。

精神衛生にもよくない日々。

 

まだ準備が整ったわけでもないし、自分のなかで府落ちしてもないんだけど、引っ張り続けてもこれ以上なにも出でこないようなので前に進むことにした。

不安だらけだけど前に進み始めるともうやるしかないって開き直れる。

失敗したところでそれほどダメージがあるわけではないし。

自分が思っていたような未来が開ければすばらしいし、予想していなかった展開になるともっと面白い。

動き始めたことでなにが生まれるのか。

少し楽しみになってきた。

 

下北沢駅の工事もあらかた終わったみたいだ。

改札からの風景は30年通っていた見慣れた街とはまるで違っている。

でも、この街にこんな景色が隠されていたのかってちょっと驚かされたりも。

新しい景色はいつだって明るい。

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演劇とドローン

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先日、水中ドローンの説明会に参加していろいろと調べているうちに普通のドローンにも興味が出てきました。

水中ドローンは業界ないでもまだまだという感じなんですが、ドローンはそれなりにジャンルとして成立しつつある感じです。
都内でも何校かドローンのスクールみたいなのがありました。

で、たまたま目についたスクールの説明会に行ってみたんですが……ENBUゼミと運営会社が同じでした。

ENBUゼミナールは俳優や映画監督養成のスクールです。
知り合いの劇作家や演出家で講師をやっているひとも何人かいて、過去にはスクールの卒業発表にスタッフとして関わったこともあります。

なんでやねん、と思っていたら説明会のなかで簡単に言及がありました。
ドローンが出始めたて、映像系で使うことが増えて、映画監督コースなどでドローンを使った空撮を授業で扱うようになり、それをキッカケにドローンスクールを初めたとのこと。

なるほど。そういうつながりがあるんですね。

思ってもみないところでいろいろつながる。

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猥雑で薄汚れた、だからこそキラキラした世界

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仕事柄、世の中では有名な俳優さんや演出家、作家さんに会うことがよくあります。

そんな話をすると羨ましがられることも多いのですが、ぼくにはそういう感覚があまりよく分かりません。

もう少し言うと「ファン」という存在そのものがあまりわからないのです。

 

大好きな作品があっても、それを作った人に会えて嬉しいという感覚があんまりないんですよね。自分の中で。

小説や演劇作品、俳優としての役作りに魅力を感じているのだから、それと関係のないところでつながることにとくに興味を感じないのです。

例えば「サインをもらう」という感覚が本当に理解できなくて。 

あれは、なにがうれしいんでしょうか?

 

そんなぼくなのですが、ほとんど唯一の例外は物語作家の栗本薫さんです。

もうすぐ彼女がお亡くなりになって10年。

「世界でいちばん不幸で、いちばん幸福な少女」は元SFマガジン編集長で仕事のパートナーであり、そして夫でもあった今岡清さんによる、彼女との想い出を綴った一冊です。

 

ふたつのペンネームを使い分けて様々なジャンルで活動し、約30年間の活動期間に400冊ほどの作品を発表した多作の流行作家。

中学2年生で彼女の「グイン・サーガ」という本を手に取っしまったことが、その後のぼくの生き方に大きな影響をもたらしました。

 

とはいえ、どうしてそこまで心惹かれたのか、正直よくわからなかったりもしてたんですが、この本を読んでなんとなく思い当たるところがありました。

強さと繊細さの二面性。

 

ミュージカルの演出などもなさっていたので、その縁で少しだけ仕事でのお付き合いがあったのですが、そのときも同じような印象を受けていました。

エネルギッシュでいつも前に向かって進み続ける一方で、そこはかとなく漂う危うさ。

多分、彼女の作品のあちこちにそのアンバランスさは滲み出していて。

いや、モノを作る人ならほとんどはそういうバランスの悪い部分があるのでしょう。

だから、たまたま出会ったタイミングだったのかもしれません。

まだティーンエージャーで世界の前で足をすくませていたからこそ、大人で社会的に成功しているように見えた彼女のなかにある震えを敏感に感じ取れたのかもしれません。

 

この本では一章を割いて彼女と演劇との関わりについて書かれています。

本来は内向的で、自分の書きたいものをただ書き続けていたかったであろう彼女は、演劇の世界で暮らすことで、金銭的にも精神的にもダメージを受けていて。

それでも30本近い作品を演出して必ずしも居心地がいいだけではない演劇の世界にとどまり続けた。

小説を書くだけではなく、たくさんのものを失っても演劇の世界でも生きようとした、そこは自分とってもなんとなく共感するところでもあります。

傷つくことがわかっていても、猥雑で薄汚れた、だからこそキラキラした世界に惹かれてしまう。

演劇の世界との関わりは、そんな彼女の生きる姿そのものだったのかもしれない。

 

ちょうど一年ほど前にも、栗本薫さんについてブログに書いてた。

20minute.hatenablog.com

彼女の根本は「物語る人」

自分が面白いと思う物語をただ語り続ける。

だけど、ただ語るだけでは足りなかったんだろうなあ。

物語が世界と溶け合う。

小説だけではなく評論を書いたり演劇をやったり楽器を演奏したり。

自分の物語が現実の世界を生きること。

それが彼女の見たかった世界なのかもしれないな。

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当初の目的を見失う

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水中ドローンの講習会を受けてきました。
水中ドローンは、リモコンで水中を動かせる小型の無人艇です。

 

それはそれとして…

 

触ってみてとても面白くて、とはいえ趣味で買うには少しお高くて。

なんか仕事として運用できないかなあとリサーチしてました。

最近では水中ドローンもいろいろな仕様のものが出てきて調べていてもなかなかおもしろいのですが。

 

が、数時間後、なぜか普通の空中ドローンの免許取得についてものすごく調べてました。

よくあります。

当初の目的を見失って暴走することが。

 

自社のwebサイト作るにはどうするのが一番いいかを検討していたはずなのに、気がついたらwebデザイナー講座を受けようとしたり。

仕事でいく場所のアクセスとか情報を調べていたのに、なぜかその周辺の観光地を一週間くらいかけないと回れないくらいの範囲で調べてたり。

バカだな。

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買い物しようと街まで出かけて、財布は持っていたけどそのまま引き返した

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あるものを買おうと思った。
一番近いお店が新宿だったので出かけた。

電車を降りて駅ビルのエレベーターに乗った。

平日の昼間だけど駅ビルは賑やかで、着飾った人たちで溢れかえっていた。

不意に、なにか自分がここにいてはいけない感覚におそわれた。

エレベーターを降りたけどとてもそのまま買い物を続けられる状態じゃなかった。

そのままもう一度エレベーターに乗った。

駅前のロータリーに出てみた。

たくさんのひとが歩いているのだけど、全員がぼくに悪意を持っているような気がした。

ほうほうの体でバスに飛び込んだ。

もう電車に乗れる気もしなかったから。

 

翌日、同じチェーンのお店がある錦糸町に出かけた。

駅の構内にはたくさんのひとが歩いていたけど大丈夫だった。

駅ビルのフロアは天井が高く、空間も広くて、なんか快適だった。

特に何ということもなく普通の買い物を済ませた。

多分、田舎者だから新宿という街はストレスなんだろう。

劇場にいくんだったら全然平気なんだけどな。

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すごいのぼくじゃなくてぼくに仕事を振ってくれる人

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演劇界的にはそこそこ有名な劇団とか演出家さんともお仕事している。

自分に直接仕事が降りてきているのではなく、他の照明デザイナーさんからオファーを受けて、本番メンバーの一員として関わるのがほとんど。

照明業界外のひとから、そういう大きな作品に関わっていることを評価されることもあるんだけど、すごいのはぼくじゃなくてぼくに仕事を振ってくれる人がすごいだけだから。

 

20代から演劇業界に頭までどっぷりと浸かって30年位経ってみて、半身浴くらいまで浸かり具合を変えてみた。

理由はいろいろなんだけど、まあ走り続けるのに疲れたことと少し飽きちゃったから。

 

その分収入はかなり減ってしまってるんだけど、頑張りたくない、無理したくないってほざいているにもかかわらず、ちゃんとした仕事のオファーをしてくれる物好きなクライアントさんもなぜかいて。

おかげで、収入と舞台照明業界の最先端に食らいつかないとならないチャンスが与えられてるのは感謝しかない。

照明業界のトップで生きていきたい気概ももうないのだけど、それでも場が与えられてしまったら、周りに迷惑をかけないためにやりきるしかなくて。

 

けれど、ずっとそういう働かきたをしていくのかと言われればそんなことはない。

多分、自分にピッタリの立ち位置をいま探していて。

理想がキッチリと描けているわけでなくて、なにをどうしていいのかわからないまま手探りで進んでいる。

でも舞台はいまでも大好きで、これからもそこで暮らしていけるのなら暮らしたいのは本音。

現場で魂をすり減らしながら働くのに慣れてしまった。

めんどくさい人だな。

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空は、

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空はこんなに蒼いし、

川面はこんなのおだやかなんだけど、

 

理念や目的が共通でも、ライフスタイルが違う人とは一緒に戦えないのか。

ぼくが着る服は自分で決める。

ぼくのふるまいは自分で決める。

個よりもチームといいながら、チームは結局誰かの個の押し付け。

人間はめんどくさいなあ。

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観客論

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「面白い」ってなんだろうとか「エンタメ」ってなんだろうとか、なんか考えちゃう今日このごろ。
そしてお客さんが期待するものを提供するのか、想像を超えるものを見せるのか。
演劇の面白さってどこにあるのかも考えてしまう。

 

押し付けになるのはいいことではないけど、理想を追い求めないと新しい表現なんて生まれない。

とはいえ、固定ファンのついている俳優や劇団にとって、ファンのイメージを裏切るのはリスクが高い。
作り手がその折り合いをどうつけるのかは難しいし、見る側も人によってまるで違う印象を受ける。
誰もがチャレンジを評価してはくれない。結果ではなくチャレンジそのものにマイナスな評価をするひとだってたくさんいる。
その評価のブレを作り手が飲み込めるかどうか。

 

ある意味でマッチングが上手くいってないからこそ、作り手と受け手でズレが生まれてるのだし、さらに言うとそれはPR自体の問題かも。

演劇というジャンルの幅の広さがここではトラブルの元。

 

そのあたりも含めて作品と観客、俳優と観客とのコミュニケーションをどうデザインしていくのかみたいなことはもっと注目されてもいいのかなと思う。

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よく勘違いされるのですが、

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アウトドアなひとと思われるのですが、ぜんぜんそんなことはありません。

ゴリゴリのインドア派です。

テントとか寝袋とか持ってないし、そんなので寝たくありません。

壁と屋根がある場所でしか夜を過ごしたくありません。

 

友達多そうとか人付き合いうまそうとかよく言われますが、全くそんなことはなくて。

基本的にはコミュ障です。

そして謎のこだわり が強くて、受け入れられないこともたくさんあります。

 

積極的に人生を切り開いてきたみたに思われてますがそんなことはありません。

舞台照明の仕事はアルバイト感覚でやってたら次々とオファーが来て、自分でもよくわからないまま続けていつのまにかご飯を食べられるようになりました。

帆船はたまたま一度お客さんで乗ったらスカウトされて手伝うようになって、気がついたらあちこちで航海していました。

 

期待を裏切ったり、不義理をしたり。

たくさんたくさんしてきて、顔を合わせられない人もたくさんいて。

 

それでも、なんとなく楽しくやれたりもしてます。

なんか、人間はちゃんとしなきゃいけないみたいな風潮が強くなってますが、人生ってそんなもんですよ。

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いちばん稼いでいたのは30代前半です

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こんな記事がちょっと話題になってるようです。

マンガ家になろうとしたときに周りのひとから否定的な意見を言われたことについてのコラムです。
nlab.itmedia.co.jp

 

否定的な意見を言う人の感覚もわからないではないなあとも思うし、「プロ」と言ってもピンキリでどのあたりにたどり着きたいかの感覚も違うんだろうなあと思います。

 

ぼくも「舞台照明ディレクター」という割と珍しく、少しはクリエイティブなお仕事をしています。

たまに舞台照明業界で働くにはどうしたらいいですかって相談されることがありますが、相談に乗る前に「職業としてはお勧めしません」と断ってから話を進めます。

 

いろいろと普通の仕事とは違う難しいところがあって、労働時間とか労働環境みたいな比較的わかりやすい部分だけではなく、業界の雰囲気を知らない人にはうまく説明できない闇みたいなものもあって、とにかく普通に就職する気持ちだったり、華やかな雰囲気にあこがれてくるのなら、かなり衝撃を受けますよとは伝えます。

 

ぼくはいま50歳ですが、いちばん稼いでいたのは30代前半です。

そして高校の同級生たちと比べると、収入は半分くらいしかありません。

いまの仕事でもっと収入を得ることもできますが、それはそれでやりたくない仕事を増やすことになるんですよね。

 

20代でこの仕事を始めた時点でこうなるんじゃないかって想定はしていて、まあそれでもいいかと思ってました。

ただ人によってはキチンと一人前になって仕事を続けていたものの、結婚や介護などのタイミングで辞めてしまうひともたくさんいます。

労働時間とか収入とか、世の中の普通からは離れた部分が多いので、周りから理解が得られなかったりすることが多いようです。

 

生き方はひとそれぞれでぼくが口をはさんだり決めつけることではありませんが、安易に人に勧めるのもどうかなあとは思います。

たとえ好きなことでも「仕事」にしてしまうと何かが変わってしまうこともあります。

記事で紹介されているひともどのくらいの収入があるのか、やりがいのある仕事できてるのか、余計な心配をついついしてしまいます。

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