海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

【てがみ書店ができるまで 3】中身を見ずに本を買った

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下北沢のワンブロックから棚が借りられる本屋のアンテナショップで棚を借りたものの、やりたいことは本を売ることじゃないのではと思ってしまってところから、今回の話は始まります。

 

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棚を借りることにしてそこでなにをしようか、考えるうちにたどり着いたのは「国立本店」や「なタ書」「6次元」といった、これまでに見てきた本のあるスペースでした。

ぼくがステキだなと感じたのは必ずしも本が売られる場所というわけではなく、本がキッカケでコミュニケーションが生まれる場だったのです。

もちろん本を売ってもいいのですが、数十の本棚が並ぶ中で単純に自分の選書だけでそこで存在感を出せるだけの自信もありませんでした。

なので、ここで考えたのは、

「棚ひとつ分の小さなスペースから本をキッカケにしたコミュニケーションが生まれるオリジナリティーのある仕組み」を作ることでした。

 

考えるなかで思い出したのが、BOOKSHOP TRAVELLER に棚を出していた「TBOOKS」さん。

下北沢にリアル店舗も出している本とタロットと雑貨のお店。

こちらではタロットカードのリーディングもやっているのですが、そのリーディングの結果から本をリコメンドする「タロット選書」というのも行っているそうです。

BOOKSHOP TRAVELLERではその簡略版(?)で、タロットカードの大アルカナ柄のブックカバーを掛けた本を販売していました。

面白いのはブックカバーのせいで中身が見えないこと。
手にとって中を開けば見えますが、棚に並んでいる限りはタイトルも表紙も見ることはできません。

カバーのカードのイメージから選書されてるそうですが、ヒントはそれだけ。

ここまで来たら、もう中身を見ずに買ったほうがいいんじゃないかと思わせる潔さ。

ぼくも自分が好きな「fool」のブックカバーがついた本を買ったのですが、うちに帰るまで中身は見ませんでした。

レコードやCDをジャケ買いする感覚と似てるのかもしれません。

 

「中を見ずに買う」という行動はとても新鮮。

普段は本を買うときに内容とか著者とか気にして買うのが当たり前なのに、ちょっとした仕組みで内容を知らずに本を買うことに意味や価値を生み出してる。

そこがとてもおもしろく感じたのです。

 

もうひとつ思ったのは本を選ぶ基準。
誰でも好きな作家やジャンルの本を手に取るのが当たり前。
この頃は口コミやリコメンドサービスも充実していて、自分が好きな本にたどり着くことは昔と比べてずいぶんと簡単になった。

でもそれって幸せなこと?

 

演劇の世界で仕事をしていて変わったなと思うのは、お客さんの行動パターン。

広く浅くいろいろな作品を見る人が一昔前までは主流だったのが、いまは特定のジャンル、劇団、俳優さんにフォーカスして見るケースが増えた。

アイドルみたいに「推し」や「担当」がいることも普通に。

お客さんが変わるのに合わせて売り方も変わる。

ひとりの強烈なファンになるべくたくさんお金を使ってもらう、客単価をあげる戦略がごく当たり前になった。

生写真みたいな役者個人にフォーカスしたグッズ。ツーショット撮影券や握手券。

何度も公演に足を運んでもらうために、日替わりゲストを呼んだり、連日トークショーを開催したり、アドリブのシーンを入れて毎ステージ違う演技を見せたり。
ホストクラブ的なシステムを取り入れた、公演期間中の役者それぞれのグッズの売上を競い合うようなところも出てきた。

もちろん、お客さんに喜んでもらうためにいろいろと工夫することは悪いことじゃないし、お客さんの満足度も高いのだから誰が文句を言う筋合いでもない。

でもさ。

たくさんの情報があって、自分にあったコンテンツにたどり着くことが簡単になって、そのコンテンツの周りで充分に楽しく遊べる。

それはそれですごいことだけど。

でも、本の、書店の楽しみ方ってそれだけではないはず。

棚を隅から隅まで眺めて、タイトルや背表紙の色からなんとなく惹かれたものとの偶然の出会い。

ネットにはないリアル書店の面白さってそこにあるんじゃないかな。

だからジャケ買いみたいに中身を見ずに本を買うことができる。

「知らない本」と出会える書店。
なんとなくだけどそういう方向でもう少し考えてみよう。

(つづく)

 

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