島根県、雲南市の劇団「ハタチ族」の西藤将人さんが一人芝居で全国を回っていて、東京でも公演があったので観に行きました。
西藤さんと知り合ったのは仕事の関係でも何でもなく本当にたまたま。
2015年に西藤さんが所属する劇団「ハタチ族」は365日公演という企画を行いました。
一年間、毎日雲南市のどこかで芝居が上演される街を目指すという、はっきり言うと無謀なプロジェクトでした。
西藤さんともハタチ族ともなんの繋がりもなかったのですが、知人の俳優さんがこの企画とクラウドファンディングをSNSで紹介しているのを見て興味を持ちました。
いまクラウドファンディングのページ見返したら
一番安い1,000円コースのサポートだった
ゴメンナサイ……
クラウドファンディングに参加したのが2015年の1月8日。
そしてその時点での興味は確かに1,000円分くらいだったのかもしれません。
6月の中旬、クラウドファンディングのリターンのチケットを握りしめて島根に。
そこから西藤さんとの関係が始まりしまた。
公演場所はJR木次線の木次駅駅前にあるチェリヴァという複合施設の一階ロビー。
ちなみに木次駅の時刻表はこんな感じ。
かなりのローカル線です。
ちなみに泊まりは松江に取ってましたが、本番終わると電車で帰れないのでレンタカー借りました。
ぼくが観に行った日のお客さんは18人。
普通の公演だとなにそれってレベルですが、平日で、公共交通機関だと行けない時間帯で、過疎に悩んでいる小さな町で、半年間毎日公演を続けてきて、の18人。
この条件でこれだけの人が集まっていることに驚かされました。
それからも毎日公演は続き、もう一度応援しに行きたいと思いながらも島根は遠くて。
なかなか機会もないまま時間が過ぎていきました。
そう。観に行きたいのではなく応援しに行きたいと思ってたんです。
正直、お芝居のレベルは平凡に感じました。
よくもなく悪くもなく。予想していた通りだったとも言えます。
それでも、毎日公演を続けるにはとてつもないエネルギーが必要なのはわかりきっていました。
評価するべきなのはクオリティーではなくてチャレンジ精神。
ぼくだけではなく、365公演を観た人のほとんどはそに共感したのだと思います。
どこにメリットがあるのかも分からないことに挑戦する姿に。
365日公演会場のチェリヴァには実はキャパ465人のホールが併設されています。
千穐楽、12月31日にはそのホールでの公演が予定されていました。
普段の観客は20人前後。ひとけたの日も時々あるくらい。
のべ動員人数は多くてもリピーターが多くて。
465人のお客さんを動員するのには苦戦が予想されていました。
この年、ぼくの仕事納めが12月27日。
大晦日に島根に行こうとは思っていたもののなかなか予定が確定しなくて、行けることがはっきりしたのが割と直前。
ぼくの予想だとキャパ465人だけどお客さんは250人くらいかなと。
300人超えたら上出来だと思っていました。
実際、SNSを見ると、4日前でまだ300枚くらいチケットありとなってました。
つまり、半分も席が埋まってないということ。
だからチケットの予約もせずに島根に向かいました。
直前にかなりいい勢いで予約が入っているらしかったのですが、まさか4日で300枚売れるとも思ってなかったし、売切で入れなかったらそれはそれでおいしいと思ってもいました。
31日。この日は13時開演。
朝の時点でまだ100くらいは残席があるとのアナウンスもありました。
予想よりはずいぶんと売れてるけど、まあ満席にはならないだろうと思いながら電車で木次に移動。
以前に乗った時はガラガラだった木次線がかなりの混雑。
あれ、まさか。
そして木次駅で乗客の大多数が下車して向かう先はチェリヴァ。
なんかもうこの時点でワクワクが止まりませんでした。
ただお芝居を見るためだけに、田舎のなんでもない場所に続々と人が集まってる!
12時25分頃に当日券を購入。
自由席なのでさっさとなかに入る。
この時点でそこそこ混んでいたけどなんとか座席を確保。
その後もどんどんとお客さんがやってくる。
客席に組んであったスタッフブース、横2列全部確保してあったのを、両脇ギリギリまで開放してお客さんを入れ始めた。
座席がほぼ埋まったのにお客さんが止まらない!
立ち見客がどんどんと増えていく。
お芝居が始まる前から、うるうるしてきた。
動員527名。
小さな街を拠点に活動していて、それほど知名度もなく、劇団員が大勢いるわけでもなく、バックアップしてくれる組織があるわけでもない。
そんな劇団が1ステージで集めた人数としては破格。
そしてつい数日前までは半分も売れていなかったチケットが400枚近く売れた。
もう小さな奇跡と言ってもかまわないよね。
「演劇」という ジャンルそのものが、とても不思議な存在。
同じ台本を毎日演じていても、そこで生まれるものは毎日違っていて。
どのような手段でも記録することはできず、ただ時間と空間を共有した人たちだけが体験できるぜいたくではかないもの。
制作する側から見るとコスパが悪くて、お客さんから見ると不便。
なのにたくさんの人に愛される。
なぜ人は劇場に足を運ぶのだろう。
映画館でもいいじゃないか。テレビでもネット動画でもいいじゃないか。
普通に考えればそう思う。
それでも劇場でしか観ることのできない何かがある。
物語ではなく、作品でもない。
俳優、なのかもしれないけどそれだけではなくて。
多分、お客さんが求めているのも小さな奇跡なのかもしれない。
ぼくはなんとなくそう思っている。
2015年12月31日。
島根県の片田舎の町で生まれた小さな奇跡。
その場に立ち会えたのはとても幸せなことだった。
そしてそこから、新しい物語が始まる。