海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

はみ出す俳優

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昨日のブログで書いた「舞台照明デザイン」についてもう少し具体的に書いてみようかなと思います。

2017年の12月に日本スタンダップコメディ協会会長、清水宏さんのトークライブの照明デザインをやらせていただきました。

清水さんは大学時代からの知り合い。

俳優のような、芸人のような、なんか世間のカテゴリーには収まらない活動をずっと続けてらっしゃいます。

最近では海外で地元の言葉でコメディーをやるというのをライフワークにしています。

これまでもイギリス編やアメリカ・カナダ編の凱旋ライブの照明をやらせてもらってます。

他にも中国とか韓国でねライブをやっています。

そしていまはスタンダップ・コメディという日本ではあまり馴染みのないジャンルを主戦場に定め、日本スタンダップコメディ協会を立ち上げて周囲を巻き込んでライブを企画ししています。

今回はそのロシアからの凱旋ライブでのお話。

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このライブは清水さん一人しか出演せず、ただひたすらしゃべりつづけるだけの構成なので、お芝居などと違って照明もそれほど変化させたりすることもなく、ただ出演者が明るく見えるようにしてあるだけでした。

まあこの「変化しない」「ただ明るくするだけ」を決めるのも照明デザインではありますが。

 

二日間の本番の初日を照明ブースから見ていると、清水さんの移動範囲がぼくがイメージしていたのよりもかなり客席寄りになっていました。

普通、俳優さんやコメディアンの方は舞台の客席よりギリギリまでは使いません。
舞台は明るくて客席は暗いので足元が危ないからです。
また舞台前ギリギリだと照明の照らす角度がよくなかったり、当てられる台数が少なくなったりで少し暗くなってしまうからです。

しかし清水さんは、熱量高く演じるタイプ。
リハーサルのときはそうでもなかったのですが、本番になると動きが変わってきて、舞台の踏面ギリギリまで出てきて、前のめりにお客さんと相対してしゃべります。

当然、姿勢によっては時々顔への照明が少し暗くなる瞬間が出てきます。
シーンによっては明るくなったり暗くなったりを頻繁に繰り返してしまっていました。

これはかなり見にくいので本番が終わったら暗いエリアをフォローするライトを追加しようと考えて、サポートで呼んでいた照明さんに本番終了後の作業内容を指示しました。

 

けれど5分ほど見ていて気が変わりました。
普通の俳優さんはそういうところには立たないのです。
そこまで前のめりにはならないのです。
だけどそこを外れてしまうのが、エリアからはみ出してしまうのが清水宏さんというアーティスト。

彼が動くエリアを全て同じような明るさにするのは技術的には簡単ですが、エリアからはみ出す清水さんのエネルギーを視覚的に表現するにはあえて暗い場所を残しておいたほうがいいんじゃないかと。
むしろ観客に違和感や見にくさを感じてもらったほうが清水宏の生き様が伝わるのではないかと。

 

そう考えてさきほど出した指示もキャンセル。

理由を話すと照明チームのみんなは納得してくれました。

まあそんなことはお客さんには関係ないのかもしれません。

もしかすると顔が暗くなって見にくいと思った人がいたかもしれません。

でもそういうことじゃないんです。

ただ明るくするだけじゃなくて、暗さを残すこと、明かりが当たらない場所をつくること。

こういうのが舞台照明デザインです。