数年前に、女優の広瀬すずさんがバラエティー番組のなかでスタッフをディスるような発言をして話題になりました。
テレビと舞台でかなり仕事の内容は違っているのですが、まあぼくも照明さんの端くれ。質問されている当事者。
オウッ、小娘が何ほざいてんだよ。
こちとら好きでやってんだよ。
やりがいもあるんだよ。
教えてやろうか、なんでこの仕事やってるのか。
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ごめん。わかんないや。
なんでこの仕事やろうと思ったんだろう?
なかなかこうストレートに問いかけられることは人生でも多くはないので、改まって考えることもあまりないですね。
自分自身のことを考えると、大学に入るまではそういう職業があることも知りませんでした。
なのでもちろん、仕事にすることになるとは夢にも思っていなかったし。
大学のサークルで学生バンドや学生劇団の照明をやっていて、アルバイトでいろいろな現場に呼ばれて、職業としての舞台スタッフがどういうものかを自分の目で見て。
こういうことを仕事にしている人が実際にいるんだと驚きはしました。
そのままいろんな人と知り合い、会社とツテができて、段々とアルバイトではなくプロとして呼ばれるようになり、大学の3年生くらいからは普通にそれだけで生活していけるくらいの稼ぎがあって。
自分ではプロになるって明確に思ったことはなくて、なんとなくお金も稼げるし、毎日楽しいし、でズルズルと日々を過ごしているうちにプロと呼ばれるようになってしまったという感じです。
ハッキリした理由やキッカケがあるわけではないんですよね。
普通の人にはそもそも舞台スタッフが職業として存在することもイメージしにくいのでしょうね。
以前、高校の芸術鑑賞の授業で見せるお芝居のツアーで全国を回っていたとき、地方の高校で先生から、
「生徒の一人が舞台照明の仕事をしたいと言っているのですが、うまく進路指導ができないのでよければアドバイスしてもらえませんか?」と言われたことがあります。
まあ、そうですよね。舞台照明家になるルートって知らないでしょうし、調べても具体的にイメージしにくいですよね。
空いた時間にその生徒さんとお話しましたが、ぼくの第一声は
「職業としてはお勧めしません」でした。
いいこと言って、この仕事を始めたあとで「話が違う!」って思われたら困るし。
若い頃は何度か大学の後輩とかにその知り合いとかに、舞台業界で働きたいと相談を受けたことがありましたが、最初に言う言葉はいつも同じ。
「職業としてはお勧めしません」
(大事なことなので2回大文字で書きました)
先日、同業者と話してるなかで、この仕事のアレなところとして、
■拘束時間が長い
■属人的な要素が大きい
(他の人に代わってもらいにくい)
■時間の融通が利かせにくい
■技術の習得まで時間がかかる
■しかも身につけた技術はつぶしが利かない
■一日に四食食べちゃう
みたいな意見が出ました。
「属人的な要素が大きい」っていうのがなかなかの曲者で、いま、ぼくは今年の夏に2ヶ月程度の長い本番に付くお仕事のオファーを頂いてますが、その2ヶ月の間、ぼくになにかトラブルがあっても、誰かに代わってもらうことがとても難しいのです。
本番中の機器の操作はとても細かいタイミングや説明するのが難しいことが多くて。
技術レベルは問題のない人であっても、交代していきなり本番に関わるのは大変なのです。
なので本番に関わっている間は怪我や病気にとても気を使います。
本番期間が長くなれば長くなるほど、その分ストレスも大きくなります。
交代するのが難しいので、冠婚葬祭とかで一日だけ休むことも難しくなります。
実際、ぼくは父親、祖父、祖母の葬儀には出席できませんでした。
フリーランスで働いているし、しかもどれも自分が元請けで関わっている仕事の最中だったので、他の人に代わってもらうこともできなくて。
「親の死に目に会えると思うな」みたいなことも、一昔前までは普通に言われていました。
最近ではさすがにそれが当たり前という雰囲気ではなくなってきましたし、会社では可能な限り配慮してくれるところも増えましたが、それでもどうしても都合がつかないケースも少なくはありません。
またフリーランスで仕事してると、
「インフルエンザに掛かりました」とか
「怪我をして動けなくなりました」とか
直前に自分の代わりに現場に行ってくれる人を探すメールが時々送られてきます。
なかには朝起きたら、その日の代わりを探しているメールが届いていることもあります。
会社だと社内で人の調整もしやすいのですが、フリーランスだと現場に穴を開けるのは死活問題。
こちらもいつ逆の立場になるかわからないので、こういうお願いにはなるべく応えたいとは思っています。
そんな感じでマイナスの要素も大きいのにどうしてこの仕事を続けてるんだろうって思うことはよくあります。
ある程度実績のある人で、他の仕事を始めるので辞める人もけっこういます。
でも、多くは戻ってきてしまうんですよね。
そしてぼく自身も辞めて戻ってきたひとりだったりします。
これまで培ってた技術がつぶしが利かなくて他のことに役に立たないからというのもあります。
業界の雰囲気が特殊なので、社会人としての常識に欠けてる部分も大きいです。
でも、なんですかね、やっぱりそんな業界の雰囲気が合ってるんでしょうか。
なんだかんだ文句を言い、ツラいこともたくさんあり、その上でなぜか受け入れて働き続けてしまっているような気はします。
「天職」っていう耳障りのいい言葉ではありません。
そんな充実した楽しい仕事では。
むしろ、綱渡りみたいな危なっかしい人生なんですがね。
でも、まあ、キライではないのかも。