海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

衣装を汚すな

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少し前にネットである動画を見ました。

演劇公演のPR動画で、本番前の出演者たちがみんなでご飯を食べてるもの。

見ていて?ってなったのが、みんなが本番用の衣装とおぼしき着物姿で食事をしていたこと。

それもお弁当とかではなくて、大鍋からよそって(カレーかな?)食べてた。

 

演劇の世界では本来、衣装で食事をすることはご法度です。

専任の衣装さんがいるような現場で本番衣装で食事をしているところを見つかったら、かなり厳しく注意されます。

理由はシンプルで本番用の衣装は基本的には一着しかなく、本番期間中ずっとそれをしようするので汚れたり傷んだりすることは極力避けたいから。

タイトル写真はあるこどもがたくさん出ている作品の楽屋に貼られていたもの。

舞台経験が少ないこどもが多いので、わざわざ注意書きとして書かれていました。

それくらい衣装で食事をするのは非常識。

プロの俳優さんでもお菓子や簡単なフィンガースナックをつまむことはあっても、衣装のままで食事をすることはまずありません。

和装姿だと脱ぎ着するのが大変なのは確かですが、それならば衣装を汚さないように前掛けとかをするのが普通。

ましてやお弁当ではなく大鍋から自分で食べ物をよそうというのはぼくには信じられない光景でした。

 

一方でその動画はお客さんに向けてのPRとしてはとてもいいものでした。

作品制作中の出演者さんたちの楽しそうな雰囲気がとてもよく伝わってきます。

ただ演劇制作に関わっている人が見ると、ぼくと同じような疑問を感じる人も多いと思います。

作品の内容や俳優の技量とは別のレイヤーの話として、舞台業界の一般的なプロトコルを知らない人たちなんだなあと認識されてしまう可能性は高いのです。

お客さんに向けては効果的な動画が、業界内の人に対しては逆に評価を落としてしまう原因となるかもしれません。

 

まあ、でも、ぼくが感じたようなことを必ずしも気にしなくてはいけないわけでもありませんが。

ぼくが思ったのは、あくまでも商業演劇の世界での常識。

職業として毎日、安定して舞台公演を提供するために必要な心構え。

舞台が日常のひとたちが、日々の公演でのトラブルを極力避けるために生み出されたルールのひとつ。

劇団として俳優として、そういう場で戦っていくことを考えているのならばその世界での価値判断に合わせる必要がありますが、なにも演劇ってそれだけが絶対の基準ではありません。

「演劇で食べていく」にもいろんなやり方があって、商業演劇などのメジャーを目指すことだけが正解というわけではないのです。

 

「演劇」という言葉のなかには様々なものがつまりすぎていて、たまにうまく伝わらないこともあるって感じます。

シリアスなものから笑えるもの。華やかなものから重厚なもの。

商業的なものから参加者が自ら楽しむもの。

その全てが「演劇」という名前でざっくりと語られることにはちょっとだけ抵抗があったりもします。

 

ぼく自身はこれまでメジャーとマイナーな舞台業界の両方に身を置いてきました。

なのでメジャーの常識もわかるし、マイナーの熱量も素敵だと思います。

それぞれの「演劇で食べていく」やり方は違っていますし、そのことで常識やカルチャーも違っています。

衣装が汚れて公演前の忙しい時間をムダにすることよりも、観客にメッセージを伝えることが大事という考え方あっても構わないとぼくは思います。

それが彼らの判断なのだとしたら。

 

大事なのは自分がどこで戦っていくのかがわかっているかどうか。

戦うための自分の強みをどこで発揮していくのか。

そういうことが大切なのではって思います。