海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

ひと回りして、

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先日、演劇関係の初対面の方とお会いしたとき。

ちょっと変わった企画で、普通の演劇関係者は見ないような演目で、なおかつ上演地も都心からかなり遠い場所。

どうしてわざわざ見に来たんですか?と聞かれたわけではないのですが、

「ぼく、仕事は舞台照明家ですが、それはそれとして仕事ではない場所でも演劇と楽しく関わってたいんですよね」って話してました。

あっ、そうなんだ。

いままでそんなふうに思ったことはなかったけど。

 

10年ほど前、仕事自体は順調でした。

ただ、少しずつ少しずつ何かがズレ始めていて。

仕事が安定すればするほど、ぼくはイラだっていたのです。

いま思えば、自分が舞台照明家としてちゃんとやっていけると思ったときがターニングポイントだったのかもしれません。

技術だけではなくて、現場での振る舞い方とか、俳優さんとの距離感のとり方とか、プロデューサーとの付き合い方とか。

 

20歳のころからずっと劇場で暮らしていて、それなりに周りからは評価されて、十分に生活できるだけのお金も稼げていて。

それなのに自分では自信が持てない日々が続いていました。

それが、大丈夫かもと思えたときに、ぼくのなかで何かが変わってしまったみたいなのです。

 

劇場でプロとしての振る舞いを身につけること。

20代から30代のぼくにはそれがとても大きなテーマでした。

技術職にも芸術職にも向いている感覚がなかったぼくが、劇場で暮らしていくための、それは唯一のよりどころだったのかもしれません。

 

40歳頃になんとなく劇場に自分の居場所を見つけてしまってから、本当に舞台の仕事が好きなのかどうか、自分のなかに疑問が生まれたのです。

本番に関わっても心から楽しいと思えなくて。

それでも培ってきたプロ意識のおかげで、周りからはちっともそんなふうには見えていない。

数年間、そんな時期が続いたあとで、ぼくはしばらく仕事をお休みすることにしました。

 

もう舞台の世界には戻らない。

そんな気持ちで半年間完全に仕事を休んでいろいろなことを勉強しました。

とはいえ新しい場所を見つけるのもそれほど簡単ではなくて、ぼくは舞台の世界に戻ってきました。

そして気づいたのです。

あれほどイライラして劇場にいることが苦痛だったのが、嘘のようにスッキリして楽しくなっていたことに。

 

仕事を休んでいて勉強していた時期、舞台の世界の外側をたくさん見てきました。

多分、そのおかげ。

作り手としての感覚だけでなくて、舞台を楽しむ人たちの視点を少しだけ持つことができた。

プロフェッショナルであることだけが自分の価値だと思っていて、そのことに変わりはないものの、それ以外のものの見方や関わり方がある。

そう思えるようになったのです。

 

そうすると、新しい出会いもありました。

同じ舞台の世界にいても、これまではあまり接点のなかった人たち。

仕事としては関われないけど、仕事抜きでも楽しめるものに。

 

多分、最初はそうだったんですよね。

楽しいから関わっていただけで。

やっと一周りして、もう一度その場所に戻ってこれた、そんな気がします。