写真がそれほど得意ではないので、特に20代のものはほとんど残っていない。
偏屈でプライドばかり高くてそれでいて臆病で。
そんな20代だった気がする。
帆船に乗るようになって人に写真を撮ってもらうことが多くなった。
とはいえ、アルバムに丁寧に並べるような趣味もなく、もらった写真はまとめて袋に突っ込んで棚の隅に放っといてただけ。
大学にいる間からフリーランスの舞台照明家として働いていた。
学校で勉強したわけでも、師匠に教えてもらったわけでもなく、ただ見よう見まねで劇場で暮らしていた。
それはやっぱりとてつもなくストレスフルな日々で、そこで過ごすなかでなにか大事なものを忘れてしまった。
そんな感覚がいまでもあるのだけど。
ちょっとした事情があって、残っていた写真を整理してみた。
帆船のデッキや港にいるときの写真。
自分でも思ってなかったいい表情をしているのが何枚かあって。
なんだよ、自分では気がついてなかったけど、案外楽しくやれてたんじゃん。
海で暮らしていたから、劇場でもうまくやれるようになった。
ふたつの世界を持っていたから、穏やかに生きてこられた。
心の底からそう思える。