海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

やりがいを搾取されてきて30年経ちましたが、

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最近、こんなニュースがありました。

news.livedoor.com

実は、直接、間接にお仕事で関わりのある事務所さんです。

個人的に面識のあるプロデューサーさんも何人もいるので少し言及しにくいのですが、この会社だけの話だけではないし、単純にいいとか悪いとか決めつけられることでもないので少し書いてみたいと思います。

 

リンク先の記事では詳しく書かれていませんが、裁量労働制を適用しながら実際には上司から労働時間などの指示を受けていて、結果的に長時間労働なのに残業代が支給されない状況だったことを労基に訴えられたという顛末だそうです。

確かに、問題のある労働環境だったとは思いますが、たまたまそのことをアピールした人がいたからこの会社が問題になっただけで、まあこの業界、長時間労働が常習化してしまっています。

そしてそれに対して必ずしも正当な対価が支払われているわけでもありません。

 

これは上流の制作会社、芸能事務所からウチラみたいな下っ端の技術屋さんまで、エンタメ業界全体の宿痾みたいなものです。

普通の会社というのは基本的にはお金を稼ぐためにみなさん働いているのだと思います。

職業的なプライドはあるとは思いますが、自社の取扱製品に職業意識を超えた愛着を持っている人は少ないのではないでしょうか。

一方で、芸能関係で働く多くの人は自分の仕事に特別な愛情や思い入れを持っていることが多いのです。

意識しているかいないかにかかわらず、業界、あるいは会社やそのなかのある部署全体がそういう雰囲気に染まってしまっていると、いわゆる「やりがい搾取」状態になってしまうこともよくあります。

ぼく自身についての個人的な感想だと、自分みたいな人間がこの歳になってもなんとかこの世界で仕事をさせてもらえているだけでありがたいと思う気持ちもなくはありません。

確かに、やりがいを搾取されてきたのかもしれませんが、だからと言って、そのことかは必ずしもネガティブな話だけでもないのですけど。

 

もちろん、最近では労働環境についての取り組みはいろんな場面で行われています。

というか、労働時間を短くする工夫や、子どもができてからでも女性が仕事のできる環境を作っていかないと、もう業界全体が回っていかないのではと個人的には感じています。

これまでは多少条件が厳しくてもこの業界で働きたいというひとはたくさんいました。

極端な言い方をすると、業界の風習についていけない人が淘汰されて、適正な人数に収まっていたとも言えるのです。

でももうそれでは必要な人材を確保できないところまで来ていると思います。

アメリカやヨーロッパでは技術スタッフの労働時間や業務内容は契約で明確に定められていたりもします。

日本的な仕事の進めかたから見るとやりにくいところもあるのですが、日本でも少しずつそういうことを明確にしていかないといけないとは思います。

新しい人が業界に入りやすいように、そして経験や技術を持った人が流出しないような環境づくりを考えていかないといけないのです。

 

ただし難しいのは、全ては、少しでもいいモノを作りたいという、アーティストから技術スタッフ、制作スタッフみんなの思いから来ているのです。

時間や予算は無限にあるわけではなく、様々な条件な枠組みのなかで少しでもいいものを作りたいという思いが強ければ、どうしても働く条件としては悪くなってしまいます。

それを単純に、長時間労働と否定することはできませんが、いいものを作るためだから仕方がないと一概に認めてしまうことも違うと思います。

ではどうやってその折り合いをつけていくのか。

そういうことを真剣に考えていかないと行けない時代になったのだと思います。