海と劇場、ときどき本棚

2018年の7月に爆誕した何をするのかを模索しつづける会社「ひとにまかせて」代表のブログです

小さな物語しか生きられない

f:id:tanaka-B-toshihiko:20181228220125j:plain

フリーランスの舞台照明ディレクターとしてずっと仕事をしていたのを「合同会社ひとにまかせて」という名前で法人化したのは去年の夏です。

これまで趣味的にやっていた海、帆船関係の活動や以前からやってみたかった企画を仕事としてキチンとやっていこうと思うようになり、その覚悟を周りとそして自分自身に示すための法人設立でした。

といっても、いまのところ仕事の内容はほとんど変わっていません。

利益につながっているのは相変わらず舞台の仕事だけ。

 

今日はお仕事をお願いしたデザイナーさんと打ち合わせ。

舞台とは、そして海とも、全く関係のない新しいプロジェクトに関わる依頼です。

このプロジェクト、制度設計に大きな問題があって、どうがんばっても月に2,3万円しか利益がでないことになってます。

そのために、いろいろと考えて、周りの人に相談して、デザイナーさんを雇って、ってなにやってるんだって感じですよね。

 

確かに、うまく回ってくれると面白くなりそうなプロジェクトではあります。

だけどどんなにうまく回っても経済的な利益はあまり期待できそうになくて。

自分でも、どうしてこんなことをやってるのか不思議だったんですが、今日の打ち合わせ中の雑談で少しわかったことがありました。

 

おそらく、舞台の仕事に慣れすぎた、あるいはハマりすぎたからなんじゃないかって。

なにか違うことをやりたいって思ってしまうのは。

 

舞台業界で働くことは好きだし、照明ディレクターのお仕事も大好きです。

元々、自分を表に出すよりも、前に立つひとをサポートするような関わり方のほうがしっくりきます。

ひとつの作品に、照明という枠のなかで自分の感覚を付け加える作業は性格的にはとても向いているとも。

ただ、長くやりすぎて、経験値も稼ぎすぎて。

何をどうすればどうなるかということが見えすぎるようになってしまって。

 

どうすればクライアントに喜んでもらえるのかに悩むことが少なくなりました。

そしてどうすれば、トラブルを回避できるのかも。

効率よく仕事をしていくにはどちらも大切なことだし、そういうスキルをあげようと意識してもきました。

だけどね。

 

20歳のころから今の仕事をしていますが、ずっと自分がプロとしてやっていけるレベルなのかわからなくて、どこかふわふわした気持ちが心のどこかにあったのですが、10年くらい前、40歳になってやっと「プロ」と名乗る自信が持てるようになりました。

そしてその頃からからだんだんと、この仕事だけをしていることに違和感も感じるようになったのです。

その違和感の正体はいまもってはっきりとはわからないのですが。

そしてその頃から、ぼくは舞台照明の「次」をなんとなく模索してきました。

 

自分では40歳を過ぎて他のジャンルにチャレンジしてもなんとかやっていけるのではと考えていました。

20歳のころに、全くなんの経験もない舞台業界に飛び込んで、周りの先輩からこの仕事に向いてないからさっさと辞めたほうがいいと言われ続けながらもなんとか生き続けた経験があったからです。

勉強会やセミナーに顔をだし、起業スクールみたいなところにも通いました。

演劇みたいな小さな世界のなかでだけ生きていくよりも、人の役に立つ仕事、世の中の役に立つ仕事、より広くて開かれた場所で生きたいと思っていたのです。

けれど数年間そんなことを続けて思ったのは、自分は思っているほどなんでもできる人ではないということ。

 

起業スクールのマネージャーさんに「あなたは舞台の仕事がなくなって他のことに全力を注げるようになったら成功する確率が高いのに」みたいに言われたことがありました。

まあそうかも知れないなと思う一方で、いやそういうことじゃないかもとも。

 舞台のこととか帆船のこととかである程度うまくやれているのは、それが大好きだから。

どんなに社会的に価値を認められたことでも、自分が愛せないことに取り組むと高いパフォーマンスは出せない、そういう人種なんだろうなってこの頃では思うようになってきました。

これまでもうっすらとは分かっていたのですが認めたくなかったのです。

自分が、利益や社会貢献みたいな大きな価値のために動くのではなくて、ただ「好き」という小さな物語を生きることしかできない人間だっていうことを。

 

そのことを受け入れたときに、そしていろんな意味での自分の限界を悟ったときに、ぼくは初めて次のステップに進むことができました。

違うどこかに行きたいと強く願うようになってから、7,8年が経っていました。

そして自分ひとりでは、もうどこにも行けなくなっていることにも気づいたのです。

いや、若い頃に自分だけの力で育ってきたとこれまでずっと思っていましたが、実のところは使えないぼくに仕事を回してくれた先輩方や、一緒に仕事をしたり飲みに行ったりしていた同世代の仲間たちや、いろんなひとのおかげでぼくは生きてこられたこともわかったのです。

ここ何年かずっといろんなことがうまく行かなかったのは、ひとりでなんでもできると思っていたから。

舞台照明の世界ではひとりで切り盛りしてもなんとかやっていけるだけの力があるのかもしれません。

そのせいでいつのまにか、ひとりでなんでもやってしまいがちで人に頼ることが苦手になってましった気もします。

ぼくの会社の名前は「ひとにまかせて」

ひとりではどこにも行けないことに気がついたから、そのことをずっと忘れないように、ぼくはこの名前を選んだのです。